追悼
中嶌道靖氏を偲ぶ
Memorial Message by Professor Katsuhiko Kokubu
國部 克彦
神戸大学大学院教授
中嶌道靖氏が2025年4月22日に逝去されました。享年61歳という早すぎる死に、これまで40年共憂共楽の道を歩んできた私は、ただ茫然として言葉を失っています。
中嶌氏は、関西大学教授として原価計算・管理会計の研究・教育の面で多大な業績を残してこられましたが、その最大の功績は環境管理会計の開発、特にマテリアルフローコスト会計(MFCA)の開発と国際標準化に尽力されたことです。環境報告や環境会計が日本企業に導入されようとしていた1990年代から、中嶌氏はその理論的支柱であると同時に、実践の先導者として世界を股にかけて活躍されました。
特に、MFCAの国際規格ISO14051、ISO14052、ISO14053については、日本のエキスパートとして会議を主導し、日本発の国際規格を作り上げた功績は高く評価されます。中嶌氏がいなければ、MFCAの国際規格が今のような形では実現しなかったことは、コンビナーであった私が断言できます。MFCAの実務への普及にも世界レベルで尽力され、国内外で大きな実績を残されました。
中嶌氏の優れていたところは、学者にありがちな理論偏重ではなく、むしろ実務家よりも実践的で、それを理 論構築に活かすという柔軟性でした。現場感覚に非常に優れており、日本だけでなく、世界中の多くの政府機関や企業から高い評価を受けてきました。私も数えきれないほど、中嶌氏とともに現場に同行し、国内外の会議に出席してきましたが、中嶌氏の判断の鋭さに何度助けられたか分かりません。
さらに、中嶌氏を語るうえで忘れてはならないことは、そのユーモアに富んだ明るさです。中嶌氏の周りでは 常に笑いがあり、「ミチ」の愛称で親しまれ、世界中の誰とでもすぐに友達になれる能力は素晴らしいものがありました。ISOの会議で激論を交わした相手ともすぐに笑いあえるのは中嶌氏くらいのもので、このおかげで彼が参加する会議はどれもほとんどうまく行きました。
その中嶌氏が61歳の若さで泉下の客となられてしまい、これから彼がなし得たであろうことを思うと残念でなりません。世界の環境経営にとって重大な損失です。中嶌氏は、環境管理会計の実践への新たな有用性を様々な場面で発見して、それを展開する能力に非常に長けていました。MFCAが、そのオリジナルであるドイツのフローコスト会計に比べて、はるかに簡易で、しかも実践的な有用性に富んでいるのは中嶌氏の功績です。
現在は、私たちがMFCAを国際規格化した当時とは比べものにならないほど、環境経営や環境情報開示に関する基準やガイドラインが増えています。しかし、実際にどれほど役に立つのか分からないような基準も少なくありません。このようなときこそ、中嶌氏の出番のはずでした。もう、私たちは中嶌氏の意見を聞くことはできませんが、中嶌氏ならここでどう判断するかと考えることで、彼の遺志を後世に引き継いでいく責務が私たちにはあります。心からご冥福をお祈りします。